『撞球の魅力』                  四年 広瀬 雄二  撞球と言われると、「ん?なんだそれ?」と思われるかもしれませんが、バド ミントンを羽球と言うが如く、ビリヤードを撞球と呼ぶのです。もっとも撞球と いう言葉は滅多に使われることはありませんが・・・  映画・ハスラー2の影響で、2,3年前にブームになった玉撞きも、最近では、 ボーリングと同様な、あるいは少し気軽な娯楽として落ち着いてきました。  一・二年の頃は、放課後暇なときに友人とともに単なる暇潰しの娯楽として、 楽しんでいた私ですが、昨年暮れ頃でしょうか、ふとしたきっかけから玉屋の人々 と親しくなり、いろいろなことを教わりつつプレーするようになりました。そう して、娯楽の域を脱して楽しんでいるうちに、これほど頭脳的なスポーツがある だろうかと、感心するとともにいっそうその魅力にひかれることとなりました。  友人などと時を過ごすために時折、ビリヤード店に足を運ぶ人であれば、少な からず玉撞きを「おもしろい」と感じているはずです。また、玉撞きが二人以上 で行う勝負事であるという性格上、相手よりうまく撞きたいと思うのは当然です。 ある程度の経験を重ねてくると、的玉に対して手玉をどのくらいのずらし方で当 てればポケットに入るかがつかめてくるので、一生懸命ずらし具合を体得しよう と試みるようになります。このずらし具合の事を「厚み」と言いますが、厚みの 見極め方を教えて欲しいと思っている人が多いのではないでしょうか。もっとも 有名な方法は、手玉と的玉があたったときのイメージを思い浮かべながら、その 手玉のイメージボールの場所をねらって玉を撞くようにするというものです。そ んな事はたいてい知っていても実際にイメージボールのところへ撞こうとしても 思い通りにポケットインしない事が多いでしょう。  キャッチボールなどで、相手めがけてものを投げるときに、  「彼の方向に投げるには、腕をこの方向に振り出し、掌 が彼の方向に向いた ときに、指を広げるんだよ。」などと教えられてコントロールを会得した人など いないはずです。誰に教えられるともなく、  「さっきあそこへ投げようとしてあっちにいっちゃった から、今度はあの辺 をねらって投げりゃいいんだな。」という微調整を何度も何度も繰り返して、 「投げる」という基本的な技を習得したはずです。勘と経験だけが頼りです。  玉撞きの「厚み」もそんな基本的な技術の一つで、何度も何度も勘を磨いてい くうちに把握できるものなのです。  「おれコントロール悪いから、厚みもいつまでたってもわからないや。」など と嘆く前に、一度プロ同士の試合をご覧になってみて下さい。玉撞きってこんな に簡単なものなのか、ときっとびっくりする事でしょう。なぜなら、一流のハス ラーは今ねらっている玉を入れると同時に、次に入れるべき玉をねらいやすい位 置に手玉を運んでいるからです。既にご存知の方もいると思いますが、これを 「ポジションプレー」と言い、ポジションプレーこそビリヤードの知的かつ芸術 的な醍醐味なのです。  ある程度の厚みがわかってきた人なら、フリーボールショットは、まっすぐに は撞かず少し斜めの角度から(このことを「フリをつける」という)適宜押した り引いたりして、手玉を次の玉の近くへ持っていこうとするでしょう。これを1 番ボールから8番ボールすべての玉に対して行い、目的の9番ボールまで到達す るのです。次の玉の近くまで、手玉を持っていく事を「ネクスト取り」といいま すが、このネクスト取りのこつについて少しお話しましょう。  基本的な手玉のコントロールの方法に「押し玉」と「引き玉」があります。次 の玉がわりと近くにあれば、この押し玉と引き玉を微妙にコントロールする事で ネクストが取れるのですが、実際押し玉引き玉を思い通りの位置に止める事は、 絶妙なキュー先のコントロールが要求され非常に難しい事なのです。それよりも むしろ、手玉が的玉にあたるときに的玉と90度の方向に進む性質を利用してネ クストを取る方が、はるかに簡単です。そしてもう一つ、クッションを有効に利 用する事が大切です。手玉を撞くときに、横回転(ヒネリ)を与え、手玉がクッ ションにあたったときに思い通りの方向にはねかえるようにするのです。的玉に 対して必ずある程度のフリをつける事と、クッションを利用してネクストを取る 事を心がければ、上達も早く楽な玉撞きができるようになるでしょう。  さてここから先は、頭脳的スポーツの世界へと様変わりしていきます。   ・もっとも楽にかつ安全にネクストの取れる方法はど   れだろうか?   ・仮に的玉をポケット出来なかったときに、残り玉が   相手に対して難しくなるポジションをどのように作っ   たらよいだろうか?  ゴルフと違い、同じ手玉を順番に撞くビリヤードでは、自分が玉を外してしまっ たときの残り玉が、試合の流れを左右します。9個の玉が入れやすくなるように 手玉の流れを設計することはもちろん重要なことですが、100%入れる自信の ない玉をねらうときに、残り玉を難しくする作戦も必要です。テーブルに散って いる各ボールの位置関係により守るか攻めるかの判断を下しつつプレイしていく 知的な楽しみが存在するのです。  まずは、フリーボールから3個の玉を連続ポケットする事から始めましょう。 撞く前に手玉をどのように流すかのビジョンを練って、丁寧に撞いてみましょう。 ここで失敗するとしたら、それはミスショットによるものよりもむしろ、成功度 の低いポジショニング計画に原因があることが多いものです。「いい加減な手玉 のコントロール」に耐え得るビジョンを考えることは、思ったよりも頭を使う心 地よい楽しみにほかなりません。  うん、奥が深そうでおもしろいかも知れないな、と感じたならば今度ビリヤー ド店に行ったときにお店の人になんでもいいから質問してみるとよいでしょう。 正しい構え方のような基本的なことから、バンクショットのねらい方やセイフティ (相手が的玉をねらえなくしてしまう防御のプレイのこと)のような高度なテク ニックまで、きっと親切に教えてくれることと思います。そして自分より上手な 人と撞いて、その人のノウハウを盗むことが上達の早道です。  ポジションプレーのおもしろさを覚えたら、きっとやみつきになることうけあ いです。ぜひ一度、ポジショニングを意識した玉撞きをしてみて下さい。