『玉講座・ルール編』               修士一年 廣瀬 雄二  さて今年も秋がやってきて、締切と格闘する季節となりました。今年の秋は毎 週欠かさず台風の来る梅雨時真っ青のうっとうしいものとなりました。何を書い てよいものかと思案をめぐらせ、今後シリーズ化されるかもしれない八戸さんの 「牌講座」に対抗するわけではありませんが、去年の続きとして「玉講座」を。  ビリヤードはおもしろいと思ってやっていたものの、日頃ナインボールばかり をやっていて飽きてしまったとお嘆きのあなたのために、本玉講座では代表的な 玉撞きの種目とそのルールについてご説明いたします。なお、それぞれのゲーム でボールをどのように並べるかについては紙面の都合上ボールをセットした時に 上の方から左右の順に読んだ形式で説明します。また、実際にセットする時は対 称形であれば左右どちらでも構いません(例えばナインボールの5番と6番など)。 もし興味をもたれて、プレイしてみたいと思われた場合は実際にお店などで確認 して下さい。それではまず、ここのルールの説明の前に、基本的な用語について 説明します。 「ミスキュー」  手玉を撞く時に、キューの先端(ティップ、またはタップという)が、手玉の 端に当たり、「バシッ」とか「カシュ」とかいう異音がして、手玉がジャンプし てしまう場合があります。このような場合、そのショットはミスであるとみなさ れ、ファウルプレイとされます。手玉がはねたかどうかが判断の基準となります。 「ノークッションファウル」  手玉が、ねらっている的玉に当たってから、手玉または的玉の少なくとも一方 が一回以上クッションに当たらなければファウルとするルールを言います。この ルールを適用する代表的なものに、ナインボールがあります。 「手玉フリー・手玉的玉選択」  相手プレイヤーがファウルをしたとき、フリーボールが与えられます。このと きに、ナインボールのように手玉をテーブル上の任意の場所においてプレイを続 行できるルールをオールフリーボールといいます。ブレークの時に手玉をおける 領域をヘッドライン内といいますが、この領域内に手玉をおいて続行するルール を手玉的玉選択ルールと言います。この手玉的玉選択ルールは少し複雑です。・ 的玉がヘッドライン外にあるとき  「現状維持で撞く」または「手玉をヘッドライン内に移動」または「手玉はそ のままで、的玉をフットスポットかセンタースポットに移動」のどれかが選べま す。なお、フットスポットとはブレークの時に的玉をセットする場所に貼ってあ る印のところであり、センタースポットとはテーブル中央の印のことです。・的 玉がヘッドライン内にあるとき  「現状維持」あるいは「強制的に的玉をフットスポットかセンタースポットに 移動し、ヘッドライン内に手玉をおく」のどちらかを選びます。 「コールショット」  ナインボールでは手玉が、もっとも若い番号の的玉に最初に当たりさえすれば、 何番の玉がどのように入ってもポケットインとみなされます。しかし、あらかじ めどの玉をどのポケットに入れるかを宣言し、その通りに入れなければポケット インとみなされないルールをコールショットルールと言います。しかし、どのよ うに入れるかを宣言する必要はなく、たとえばバンクショットが予期せずして何 度も跳ね返ってから予定していたポケットに入った場合はポケットインとみなさ れます。特例として、的玉が他の玉に隠されるなどして、手玉を先にクッション に跳ね返らせてから的玉に当てる場合には難易度が高いため、「クッション」と 宣言するだけでよいことになっています。  それではいくつかの競技のルールを説明いたします。 【ナインボール】 人数・・・・・2人 得点・・・・・9番ボールのポケットイン 使用ボール・・9個 並べ方・・・・1、5、6、2、9、4、7、8、3 用途・・・・・一対一の勝負  的玉のうち、もっとも小さい番号のものに手玉を当て、的玉をポケットします。 当然手玉が最初に的玉に当たりさえすれば、どの番号の玉が落ちてもかまいませ ん。最終的に9番ボールをポケットした者が得点します。  手玉オールフリー、ノークッションファウルあり。 【エイトボール】 人数・・・・・2人 得点・・・・・8番ボールのポケットイン 使用ボール・・15個 並べ方・・・・8番を中央にセット 用途・・・・・気軽な一対一の勝負  15個のボールを、1〜7、8、9〜15の3グループに分けます。1〜7を ローボール、9から15をハイボールとし、ブレークのあと8番以外の好きな玉 をねらい、最初に入れたボールの属するグループが、以後自分の落とすグループ となります。もしブレークでどちらかのグループの玉が落ちた場合、そちらのグ ループが自分の持ち玉となり、ハイボールローボール両方とも落ちた場合は、好 きなグループを持ち玉として選べます。自分のグループの玉のうち、好きな玉を ねらって玉を落として行きます。自分のグループの玉を全部落とした後、8番ボー ルをねらい、ポケットした人の勝ちです。なお、誤って途中で8番を落としてし まった場合直ちに負けが決定しますが、ブレークの時に8番を落とした場合には 直ちに勝利となります。  手玉的玉選択ルール。 【ローテーション】 人数・・・・・2人〜4人程度 得点・・・・・的玉の番号と同じ点 使用ボール・・15個 並べ方・・・・1、7、8、11、12、13、9、14、        15、10、2、4、5、6、3 用途・・・・・2人以上の勝負など  ナインボールと同様的玉のうちもっとも若い番号のボールをねらいます。ポケッ トしたボールの番号と同じ数を加算していき、自分の得点とします。あらかじめ 40点〜120点程度の上がり点を決めておき、その点に早く到達した人が勝ち となります。  コールショット、手玉的玉選択ルール(手玉フリーとする場合もある)。 【ボーラード】 人数・・・・・1人 得点・・・・・的玉一個につき一点 使用ボール・・10個 並べ方・・・・任意 用途・・・・・一人での練習  ボーリングのルールでビリヤードをするのがボーラードです。10個の玉を好 きな順番でセットし、ブレークをしますが、ブレークの時には玉が入っても入ら なくてもかまいません。ブレークのあと、最初に玉を外してしまったところまで がボーリングでの第一投に相当します。何球連続してポケットしたかが第一投で の得点です。その後二回目に外すまで連続してポケットした数が第二投での得点 です。また、ブレークした後に一球も外すことなく10個すべてポケットした場 合はストライク。第二投目ですべてポケットした場合はスペアです。これを10 フレームまでボーリングと同じように行い、総得点を計算します。100点以上 の点を取るのはなかなかたいへんで、私もつい最近まで100点前後をうろうろ していました。あまりボーラードをする機会はないのですが、いまのところ17 0点位が自己最高です。  コールショット、手玉的玉選択ルール。 【隠し玉】 人数・・・・・2人〜7人 得点・・・・・くじで引いた番号の玉のポケットイン 使用ボール・・10個 並べ方・・・・1、2、3を三角形の頂点の位置とする 用途・・・・・大勢で楽しむ  3、4人以上でビリヤードを楽しむときにお勧めなのが、この隠し玉です。4〜 10までの数字を決定できるクジを用意します。たとえばトランプカードの4〜 10などでもかまいません。1番2番3番ボールが三角形の頂点になるように玉 をセットし、みんなでクジを引きます。このとき引いた数字を誰にもわからない ように覚えておきます。さて、ブレークしたあとはナインボールと同じように、 もっとも若い番号のボールをねらい、ポケットしていきます。そして自分で引い たクジの数字と同じ番号のボールをポケットインしたら、みんなにクジを公表し て勝利を宣言します。  このゲームのポイントは、自分のボールをねらうときに顔色を変えてはいけな いことです。自分の番号を感づかれてしまうと著しく不利になります。もし、誰 も自分の玉を落とせず10番までポケットしてしまった時には、もう一度10個 の玉をセットし、ブレークからやり直します。ですから、他人に自分の番号のボー ルを落とされてしまったときにも、負けが決定するわけではないので、ポーカー フェイスを装い、残りの玉を全部落とすことに専念しないといけません。  このゲームは、それぞれのプレイヤーの心理状況が手に取るようにわかり非常 に盛り上がります。一つの台を5人程度の大勢で使わなければならないような時 には隠し玉をするのがよいでしょう。ファウル適用ルールはナインボールと同じ です。 【フォーティーン・ワン(ストレイトプール)】 人数・・・・・2人 得点・・・・・的玉一個につき一点 使用ボール・・15個 並べ方・・・・任意 用途・・・・・高度な戦い  ポケットゲームの王様とも言われるのがフォーティーンワンです。一般には高 度な技術を持ったプレイヤー同士で競技される種目で、映画ハスラーは(2では ない)ストレイトプールを題材に描かれています。  ハイレベルのプレイヤーが行うことを想定しているためルールもそれを意識し たものとなっています。まず、15個のボールを任意に並べます(このことをラッ クと言います)。ハイレベルのハスラーなら、好きなボールをねらってもよいと いうこの競技では、ブレークの時に強く撞いてボールを散らばらせてしまうと直 ちに相手に全部取られてしまうので、通常ブレーク時にはセイフティをします。 このため、ブレークの時には最低2個の的玉と手玉がクッションに当たらなけれ ばならないというルールが決められていて、ブレークの時にこれに違反するとファ ウルとみなされ、2点が得点から引かれます。ブレーク時以外のファウルはマイ ナス1点で、3回連続ファウルをすると15点が引かれます。その後は、コール ショットにより次々と玉を落として行き、一つ玉を落とす毎に1点を得点に加え て行きます。さて、テーブル上の的玉が残り一つになったら、相手の人は14個 のボールを、頂点の一つを除いてセットしなければなりません。プレイヤーは、 最後に残った玉をポケットインしつつ、手玉で14個のラックを割りにいかない と、続くプレイでポケットインするのが困難になってしまいます。  このように、14個入れてはラックを作り最後の1個を入れながら割る、とい うのを繰り返し、最初に決めておいた上がり点を先に獲得した方が勝ちです。わ れわれのような素人であれば、上がり点を30〜50点程度に設定し、最初のブ レークにはセイフティをせず、玉を散らばらせてからプレイするのがよいでしょ う。  コールショット、手玉的玉選択ルール。     ・   ・   ・   ・   ・  今回私が一押しでお勧めするのが、「隠し玉」です。これはビリヤードそのも のの技術だけではなく、自分の持ち玉を悟られないようにするそれぞれの人の心 理状況を観察できるので、非常に場が盛り上がります。自分の番が回ってきて、 妙に緊張しながら構えていると、  「お前5番だなぁ?」 という声がすかさず飛んできたりして動揺を誘われます。  締切が間近に迫りすぐに書けるようなネタを考えた末、去年の続編としての玉 講座をルール解説という形で書いてしまいました。解説は、少なくとも一度はポ ケットビリヤードを経験し、ある程度の実戦ルールを既に知っている人を対象と しています。ここで説明したルールは実戦で起こり得る特殊な場合を除外して、 基本的なものだけに絞っています。もし、そのような特殊な場合の対処法などの 質問がありましたら、大駒研廣瀬までどうぞ。  これ以上、紙上で説明できることが見当たらないので、おそらく玉講座はこれ を持ってお開きとなるでしょう。