『玉講座その六・外的要因編』                  博士三年 広瀬 雄二  今年になってテレビコマーシャルで「インターネット」という言 葉が連呼されるようになりました。一般の人々にとっての「インター ネット」は、WWWという、情報の編目を駆けめぐるソフトウェア の画面のイメージそのものであるという風潮があります。なぜ、そ んな話をするのかというと、そのWWWについ先月、本講座の文章 を置いて公開することにしたからです。ビュッヒェルヒェンだけに 書いている時は、球撞きにそれほど興味のない人がほとんどだろう と思い、勝手に一人で説明を書いて悦に入っていることができまし たが、それを日本中に公開するとなると少し緊張します。でも、そ れだけ書いた甲斐があると感じられるので、もし公開したいと思わ れる場合はわたくしま で御連絡ください。 さて本題に移り、球撞きの外的要因話をしましょう。ここでいう 外的要因とは球撞きをする上で、自分の腕以外でポケットに影響す るものを指します。人間は適応力があるので、少々の外的要因は無 意識のうちに吸収してしまい、普段通りに玉を撞くことができます。 それゆえ、実はある条件が的玉の行き先にかなりの影響を及ぼす場 合であっても、私がそれに気づかないでいる場合もありますが、そ れについては目をつぶっていただき、私がとくに気をつけている三 点にしぼって話を進めます。

・キュー


「弘法筆を選ばず」主義である私はキューはまっすぐだったら何で も良いと思っています。そうした理由で、私が友人数人と球撞きを 本格的にやりだした当時も、友人達が揃ってキューを買うのをよそ に一人貸しキューで撞いていて、それでも友人達とまったく互角に 上達して行きました。友人達に遅れること一年ほどで、ようやく私 も個人キューを買いましたが、別にそれによって格段に腕が上がっ たという意識はありません。と、否定的な文章から始めましたが、 キューの性格を決めると一般的にいわれている要素のうち、次のも のは無視できないと思っています。
シャフトの硬さ
キューの先端の方の部分をシャフトといいますが、ここに折り曲げ る力を加えた時に、どの程度しなるかによって玉のひねり具合が変 わって来ます。九十五年度の本講座で、「柔らかい撞き出し・硬い 撞き出し」について説明しましたが、簡単に補足すると、柔らかい 撞き出しとは手玉をひねる時にキュー先をひねりの方向と同じ方向 に「キュッ」っと逃すような撞きかたを、硬い撞き出しとは手玉の 撞点の左右にかかわらず、しっかりキューを握ったままほぼまっす ぐキューを出すような撞き方を言います。シャフトが硬いと硬い撞 き出しがしやすく、ひねった時の手玉の回転は出にくいわりにキュー ずれが起きやすいのですが、中心付近を撞く時にキューを無駄にこ ねてしまうことがあまり起きません。シャフトが軟らかい場合はこ の逆です。

タップ
タップは手玉にじかに触れる部分ですから、ここが一番影響すると 言っても過言ではありません。特にタップの形状は撞いた感触を大 きく左右します。具体的には、タップの先が丸くなっているか、平 らになっているかで大きな違いが出ます。平らになっている場合は、 手玉との接触は、球と面の接触となりますから、キュー先をほんの 少しずらした場合には接触点は手玉の中心のままです。ところが、 タップの先が丸くなっていると、球と球の接触になります。実際に は手玉の方が直径が大きいので球と点の接触とみなせ、たとえばキュー 先を5mmずらしたら手玉との接触点もほぼ5mmずれます。つまり、キュー 先をずらしてひねりを加える場合に、タップが尖っている場合には ずらした分がほぼそのまま反映されるのに対し、平らになっている 場合にはキュー先のずれよりも少なめに撞点のずれが生じるという ことになります。一概にどちらが良いとは言えませんが、ひねった 時にコネてしまう傾向がある人はタップの先を平らにしておいた方 が良いのではないかと思います。最近の話ですが、どうしても順ひ ねりの玉をコネて撞いてしまい、必ず薄く外してしまう症状が続き ました。コネないようにガツンと撞いたりして直そうとしてもいっ こうに解決しなかったのですが、ある日キュー先を削って平らな部 分を作ったらいとも簡単に症状は消えました。

・テーブル


テーブルの質の違いも玉の狙い方に大きく影響を及ぼします。テー ブルには多くの種類があるのですが、残念ながら私は三種類のテー ブルしか知りません。しかもあまり多くの店には行っていないので、 ここで挙げたテーブルの性質が本当に全てのテーブルに共通に当て はまるかどうかは定かではありませんが、大体の傾向はつかめると 思います。
Murrey
最初に通った店のテーブルが Murrey でした。その店に通っていた 時代はあまり上手ではなかったのと、最初に慣れたテーブルだった のでどういう特性を持ったテーブルなのかは良くわかりませんでし た。次に述べるGallionよりもクッションが立つ(バンクショットを 狙っても的玉が狙ったポケットよりも手前側に跳ね返って来てしま うこと)ということぐらいしかわかりません。

Gallion
東京近郊の球撞き屋のポケット台の多くはGallionではないかと想 像しています。このテーブルはとても素直で、バンクショットなど もほとんど計算通りのところに出ます。ポケットも甘めで、コーナー ポケットを狙う時に的玉がクッションをかすめるような道筋になっ てしまっても大抵入ります。

Brunswick
この台はクッションが非常に立ちます。バンクショットはかなり薄 めに狙わないと入りません。クッションが立つということは、それ だけ手玉の跳ね返り係数が高いということでクッション後の玉のス ピードの低下が少なく、新品の、手玉の走るラシャが張ってあった りすると、本当に手玉が長い距離を走ります。また、Brunswick の ポケットはかなり渋い方で、的玉がクッションをちょっとでもなめ てしまうと穴の途中に引っかかって止まってしまいます。ある程度、 玉を入れる力が付いたらこのテーブルを選んでプレイすると良いで しょう。経験的にいうと、正確にポケットの真中に的玉が行くよう にしないと入らないので、緊張して撞くことから却って良い結果を 生むように思います。

・気候


湿度の高い日は、テーブルコンディションがかなり変わります。ラ シャの摩擦抵抗が増すので玉の走りが悪くなります。さらに手玉を ひねりを加えた時にかかるカーブの曲がり具合が変わります。この 変わる感触は、その人、その時のひねりの加え方によるので、一般 的には言えません。ただし、例えば、「必ずいつもより薄くはずれ る」とか、「弱く撞く時は厚く外れて、強く撞く時は薄く外れる」 のようにパターンがあるはずですから、外れてしまう原因が湿度と いう可能性があることを知っておくと悩まず調子を回復できること があります。

・その他


最後に雑多な要因を挙げます。
前髪
キューを構えた姿勢で前髪が目にかかるとやはり狙いづらく、それ 以上に集中力をそがれます。狙う時に目にかかるようになると「床 屋に行かなきゃ」と思います。

手の汗
特に右手で撞く人の場合、キューの支点となる左手の人差指と中指 が汗ばむとキューがなめらかに滑べらず非常に撞きづらくなります。 左手で作る支点の部分をレスト(またはブリッジ)といいますが、こ この滑べりを良くするためのパウダーが通常どの店にも用意してあ ります。確かにこれを手にまぶすと一時的に滑べりが良くなるので すが、さらに汗ばんでくるとパウダーが小麦粉のだまのようになり、 また滑べりが悪くなります。そしてまたパウダーを付け、だまにな り、を繰り返すので根本的解決にならないように思います。お薦め は、「玉を撞く前に石鹸で完璧に手を洗う」です。そして手の水分 をきれいに拭いて、キューのシャフトの部分も備え付けのタオルで 良く拭きます。もしそれが自分のキューであれば濡らしてこれ以上 ないほど固くしぼったタオルでシャフトの部分を両手で強く握りし め、キューを床に垂直に立てて体重をかけてキューをしごくように 拭きます。きれいに拭けると「キーン」と甲高い音がします。音が しない場合は、タオルの水分が多すぎる場合が考えられ、あまりキュー に良くありません。さて、このように手とキューの両方を清めるこ とによって、レストに完璧な滑べりが得られます。はっきり言って これは快感で、本当に気持良く球撞きに集中できます。さらに、こ のような習慣をつけていると、球撞きに集中すると左手に汗をかか なくなって来ます。「一人前の女優は本番になると顔に汗をかかな い」という話を聞いたことがありますが、おそらくこれに通ずる現 象なのではないかと思っています。

チョーク
私はお店のチョークしか使わないので、その種類による差はわかり ません。私が気にしているのはチョークの塗り方で、常に丁寧に塗 るように心がけています。多くの人は、右手でキューのグリップの 部分を持ち、左手にチョークを持ち、チョークをタップにかぶせる ようにして右手でキューをグリグリとひねって塗り込んでいます。 あれではタップの載っている台座の部分が汚れて傷んでしまううえ に、タップそのものが予期せぬ形に削れてしまいます。先に述べた ように、タップの形状は手玉のコントロールに大きく影響します (私はこれが一番大きな要因だと思っています)から、削るような動 作でチョークをつけてはいけません。キューを床に立ててタップを 上から見つつ、チョークのへこんでいる部分ではなくへりを使って クレヨンを塗るような感じで、決してタップを削らないように心が けて塗ります。
以上私が気に留めている、球撞きにかかわる技術以外の要素につい てまとめてみました。次回は、最近始めようかと思っているスリー クッションについて書ければと思っているのですが、何かものを書 ける段階まで進むのは難しそうです。